教育旅行を「総合知」を育てる場として再定義する
教育旅行は、単なる行事や思い出づくりではありません。本校では、教育旅行を「学校のビジョンを生徒一人ひとりに浸透させ、生徒自身がその価値を行動として表していくための学習活動」と位置づけ、数年前から再設計を重ねてきました。
教室での教科学習だけでは分断されがちな知識・経験・感性を、旅という非日常の場で結び直すこと。旅は、生徒にとって「総合知」を活性化させる装置であり、教員にとっても学びを更新し続けるための実践の場だと捉えています。
学びを広げるための3つの視点
教育旅行のデザインにあたり、私たちが大切にしているのは、次の3つの視点です。
Place|なぜ、その場所で学ぶのか
その土地ならではの文脈や背景に触れることで、学びは一気に立体的になります。「どこへ行くか」ではなく、「なぜ、そこなのか」を問い続けることが、旅を学びへと変えていきます。
People|誰と出会うのか
旅先で出会う人の存在は、生徒の価値観を揺さぶります。専門性や立場の異なる人との対話を通して、生徒は社会の多様性を実感し、「もう一度会いたい人」「もっと知りたい世界」と出会っていきます。
Passion|どんな情熱に触れるのか
地域や社会を動かしている人々の想いに触れることは、生徒自身の内側にある問いや意欲を呼び起こします。情熱に触れる経験は、「社会と自分がつながっている」という実感を生み出します。
この3つの視点が重なることで、生徒は「また訪れたい場所」「また会いたい人」と出会い、未来をつくる当事者としての一歩を踏み出していきます。

「お返しする」学びへ プロジェクト型の教育旅行
従来の教育旅行は、地域から学びを「受け取る」だけで終わりがちでした。そこで私たちは、学びをプロジェクト型に転換し、生徒が地域に価値を「お返しする」ことを重視しています。
地域で得た気づきや学びを、自分たちなりの形で還元する。その過程で、生徒は社会の一員としての当事者意識を育み、学びが誰かの役に立つという実感を得ていきます。消費する学びから、価値を創造し返していく学びへ。この転換が、私たちの教育旅行の核となっています。
身体と感性に響く体験が、問いを生む
もう一つ大切にしているのが、学校の中では得られない「身体と感性に響く体験」です。それは単なる非日常や刺激ではなく、生徒自身の生き方や価値観に影響を与える体験であることを目指しています。
自分の身体で感じた驚きや違和感、楽しさは、「楽しい」の定義を更新し、知的な探究心に火をつけます。こうした実感を伴う経験が、その後の探究や進路選択へとつながっていきます。
実践から見えてきた手応え
たとえば、中学段階の教育旅行では、一般的な行き先にとらわれず、これからの社会を象徴するフィールドを選びました。行政・企業・大学が連携し、地域課題と未来構想が同時に進む現場に触れることで、生徒は「今、社会で何が起きているのか」を自分の問題として考え始めます。
教員自身も、旅行会社や教育プログラム開発のパートナーと協働しながら、学びのデザインそのものを楽しんでいます。その姿勢が、生徒の学びにも確実に影響を与えていると感じています。
旅を、6年間の学びにつなげていく
今後は、中高6年間を見通した一貫した教育旅行の設計を目指しています。旅で得た気づきが、その後の学校生活や人生につながっていく――そんな循環を生み出したいと考えています。
教育旅行は、思い出づくりのための行事ではなく、学校のビジョンを実現するための戦略的な学習活動です。
「この場所に行けてよかった」「この人に出会えてよかった」――そう心から感じる経験が、生徒の中に確かな問いを残し、未来へと続く学びの種になることを、私たちは信じています。
