【探究の種】―中東・北アフリカと日本をつなぐ学びの架け橋ー

中東・北アフリカ地域と日本をつなぐJ-MENAの取り組みは、高校生の短期交流を起点に、新たな国際教育のかたちを生み出しています。今回は、現地との往来を通して、留学や進路を「遠い選択肢」から「現実の学び」へと近づける実践を九州大学 国際部 国際戦略企画室の沖先生に紹介してもらいます。

中東を「知りたい」から始まった進路

皆さんは、中東・北アフリカ地域にどのような印象を持っているでしょうか。紛争や不安定さといったイメージが先に立つ方も少なくないかもしれません。筆者自身も、高校時代に9.11テロやアフガニスタン戦争、イラク戦争が相次いだ時代を経験し、中東という地域を「ニュースの中の世界」として捉えていました。

2004年に大学へ進学した筆者は、国際関係を学ぶ中で「実際の中東を自分の目で見たい」という思いを強め、2005年から1年間、エジプトへ留学してアラビア語を学びました。帰国後は学部・大学院を通じて国際法を専攻し、特にエジプトを中心とした中東地域に、ヨーロッパ由来の国際法がどのように受け入れられてきたのかを研究してきました。

この研究と実体験が、その後の進路を大きく方向づけることになります。2020年9月から関わることになったのが、J-MENAオフィスでの仕事でした。

J-MENAという取り組み

J-MENAは、文部科学省が進める「日本留学促進のための海外ネットワーク機能強化事業」の一つで、中東・北アフリカ(Middle East and North Africa)地域を対象に、日本留学の促進を目的としています。日本の大学を紹介する留学フェアへの参加、現地大学や高校への訪問、オンライン説明会の実施、そして基礎となるデータ収集や分析などが主な活動です。

こうした取り組みを続ける中で、現地の日本大使館や教育省、高校とのネットワークが少しずつ築かれていきました。そして次第に、「夏休みを利用して日本を短期訪問し、大学や高校、企業を見学したい」という声が現地から寄せられるようになっていきます。

高校生の短期訪問が生む変化

2022年にはUAEから女子高校生のグループを、2024年・2025年にはUAEおよびカタールから男子高校生のグループを受け入れました。中東・北アフリカ地域の高校生が修学旅行や研修で日本を訪れる機会は、着実に増えつつあります。

中東・北アフリカ地域から日本への留学生数は、まだ多いとは言えません。地理的な距離や言語の壁、日本が身近な留学先として認識されにくいことが、その背景にあります。一方で、日本の大学では英語による学位プログラムや授業が増え、受け入れ環境は確実に整ってきています。

J-MENAが高校生の短期訪問に力を入れているのは、日本の教育環境を実際に体験し、日本の生徒や学生と交流することで、「日本で学ぶ」という選択肢を現実のものとして感じてもらいたいからです。

こうした短期交流は、日本側の生徒や学生にとっても大きな意味を持ちます。これまで遠い存在として捉えられがちだった中東・北アフリカ地域を、同世代との交流を通じて身近に感じることができるからです。交流は、日本の若者にとっても海外への関心を広げるきっかけになります。

近年、中東地域では教育環境が急速に整備され、国際的に評価の高い大学やプログラムも数多く生まれています。将来的には、日本の学生にとっても、中東・北アフリカ地域の大学が進学や留学の現実的な選択肢になる可能性があります。

交流の先にある未来へ

J-MENAでは、短期交流を出発点として、日本と中東・北アフリカ地域の間に、双方向で持続的な人的交流を築くことを目指しています。相互理解の積み重ねが、やがて新たな学びや進路の選択肢を生み出していく——その土台づくりが、今まさに進められています。