過疎化の進む地域で
愛知県田原市・渥美半島にある福江高校は、人口約5万8千人の小さな街で、少子高齢化と過疎化が進む地域に位置しています。地域の将来を担う若者を育てる場である一方、若者の都市部への流出や、企業と生徒のミスマッチによる高い離職率が課題となっています。
職業体験プログラムの始動
こうした課題に向き合うため、福江高校では観光ビジネスコースの授業「おもてなし演習」の中で、職業体験プログラムを立ち上げました。観光業を軸に地域を盛り上げたいという思いから生まれたコースで、生徒たちが地元の良さを知り、伝え、受け継ぐことを目指しています。
プログラムの特徴は「毎週金曜日の2時間」を活用する点にあります。生徒たちは地域のさまざまな企業を訪問し、現場体験や社会人との交流を重ねる中で、働くことへの理解を深めていきます。インターンシップと異なり、複数の業種を巡ることで、自分に合う仕事・合わない仕事を見極めることができる仕組みです。
双方にとっての学び
企業にとっては、若者の率直な声を聞ける貴重な機会となり、生徒にとっては「企業研究」を超えたリアルな学びの場となります。こうした交流は双方にとって実りある関係を築いています。
2年目となる今年度には、生徒の中から実際に訪問先の企業に強い関心を持ち、将来の入社を希望するケースも出てきました。待遇や条件ではなく「雰囲気が合う」と感じた経験は、進路選択における大きな一歩となっています。
また多くの生徒からは「地元にはやりがいのある仕事が多いと気づいた」「大企業は安定しているが、地元企業は距離が近く感謝の言葉を直接いただける」といった声が寄せられています。生徒たちは自らの言葉で、地元で働く意味を見出し始めています。
教員自身の原体験
この取り組みの背景には、筆者自身の経験があります。学生時代に地元で育ててもらった恩を胸に、一度は都会で働いたのちに結婚・子育てを機に地元へ戻りました。落ち着いた環境での生活を選んだことが、今の教育活動につながっています。だからこそ今は、地元に恩返しし、人から人へ、世代を超えて人を育てる循環の一端を担いたいと考えています。
地方創生への循環
生徒たちが将来、地元に残るか外に出るかはそれぞれの選択です。しかし、どちらを選んでも「故郷を思う気持ち」を持ち続けることが大切です。外に出て地元の良さを再発見することもあれば、力をつけて戻ることで地域に貢献することもできます。その循環こそが地方創生の本質につながると信じています。
未来への願い
福江高校の観光ビジネスコースと職業体験プログラムは、生徒が仕事を通じて人とつながり、地域に貢献し、自分の人生を豊かに描く第一歩です。若者が「地元を知り、伝え、支える人材」として育っていくことを願い、これからも学びの旅を続けていきます。