はじまりの想い
「地域に学びと誇りをとりもどしたい」——そんな思いから、私は仲間とNPO法人「旅とくらしの共感樂舎」を立ち上げました。私は以前、東京の私立中高で教員としてスタディツアーを企画し、地域と教育をつなぐ活動を行ってきました。その経験から、子どもたちの学びを地域へひらいていくことこそ、これからの教育に欠かせないと強く感じるようになりました。
教育の舞台を「地域」へ
現在は島根県益田市の明誠高校で、通信制の柔軟な仕組みと地域の教育資源を組み合わせ、新しい学びの形を模索しています。通信制高校と地域のサポート校が連携することで、子どもたち一人ひとりの興味関心や個性に寄り添った自由で実践的な学びが実現できる——そんな手応えと可能性を感じています。
長年教育の現場に立ち、都市中心の画一的な教育に対する違和感を抱いてきました。学校が地域から切り離されてしまっていること、それが地域の多様性や文化の持続性、そして子どもたちの可能性を狭めているように思えたのです。だからこそ私たちは、「周縁」から教育の変革を目指しています。
地域を教材にする「地産地消」の教育
私たちが大切にしているのは、地域に根ざした自然・文化・人々を教材とする「地産地消」の教育です。子どもたちが自らの興味から学びを広げていく。そのプロセスの中で好奇心と主体性が育ち、生きる力が培われていくのです。
私たちがその立ち上げに関わることができた新潟県関川村での実践もそのひとつです。廃園となった保育園を活用した「令和関谷学園」では、地域の人々が講師となり、通信制高校の拠点として子どもたちと共に学ぶ場を創り上げました。地域と学校がつながることで、学びが生きたものとなり、子どもたちの中に自信や誇りが芽生える——その姿を間近で見ることができます。
「無縁」から「縁」へ
かつての日本には、旅をしながら地域を巡る職人や僧侶など、「無縁」の存在が社会の中で文化を育んできた歴史があります。私たちはいま、その「無縁」を「縁」へとつなぎなおす営みを、もう一度取り戻す必要があると考えています。
教育を媒介として、地域内外の多様な人々が交わり、子どもたちがその交差点に立ち会うことで、地域社会は新たに育まれていく。そうした未来を、私たちは信じています。これが新たな教育旅行の可能性になるかもしれません。
小さな実践から、全国へ
「令和関谷学園」のようなモデルを全国へと広げていきたい——それが、私たちの今後の展望です。一つひとつは小さな実践でも、絵本『スイミー』のように、つながることで大きなうねりになっていく。中央集権的な教育ではなく、地域と子どもたちが主体となる、もう一つの教育のかたちを提示していきたいのです。
学びは、旅するように。地域と交わり、新しい価値観と出会う中で、子どもたちの創造性と共感力は育まれていきます。
「無縁」から「縁」へ——そのつながり直しの営みを通して、子どもたちが地域に愛着を持ち、自らの役割を見出し、自らの未来を選択し、切り拓いていく。私たちは、そんな新しい教育の地図を描き続けていきたいと願っています。