
中央アジアに位置するキルギス共和国は、日本ではまだ馴染みが薄い国ですが、豊かな自然と多様な文化が息づく、学びに満ちた場所です。2013年から2015年にかけてJICA海外協力隊・観光分野ボランティアとしてキルギスに滞在し、観光ガイドブック制作や体験型ツーリズムの開発に携わってきました。
任期後も「キルギスと日本の架け橋になりたい」という思いが消えず、現地の仲間とともに Nippon Hospitality Tabi Company LLC(NHT) を設立。観光、コンサルティング、教育の分野で、日本とキルギスをつなぐ活動を続けています。
山岳の国・キルギス
キルギスは国土の9割が山岳地帯。日本の約半分の広さながら、雄大な自然と子どもたちの元気な声に満ちた、温かい雰囲気の国です。治安も良く、どこか日本の地方都市のような安心感が漂います。
首都ビシュケクには100万人以上が暮らし、ロシア系・ウズベク系など多様な民族が共存しています。これは旧ソ連時代の歴史と深く結びついており、行政や経済にロシア人が多く関わったこと、スターリン体制下の強制移住などが背景にあります。ソ連崩壊から30年以上経った今も、多文化が混じり合う暮らしが続いています。

バザールは生きた多民族文化の教室
ビシュケクのバザール(市場)を歩くと、まるでシルクロードの世界に迷い込んだかのようです。朝鮮系住民のキムチ、タタール民族のチャクチャク、ロシア料理に欠かせないビーツ──文化と言語が交錯する食卓そのものが、歴史の教材になります。
キルギスは中国・ウズベキスタン・タジキスタン・カザフスタンと国境を接し、古代から東西南北を結ぶ交差点でした。「バラサグン」「アク・ベシム」などは、ユネスコ世界遺産「シルクロード:長安―天山回廊の交易路網」の構成資産であり、現在も帝京大学の調査団による発掘が進んでいます。

遊牧の知恵に触れる
ソ連時代に定住化政策が行われる以前、キルギス人は遊牧民として生きてきました。その知恵は今も生活に息づいています。
- 片手でつまめる揚げパン「ボールソック」
- 厳しい冬にも耐える移動式住居「ボズウイ」
どれも自然と共生する暮らしから生まれた知恵であり、文化を理解する入り口となります。

探究を深める体験たち
キルギスは、多文化・多民族・多層の歴史をもつ国です。その特性を生かし、次のような探究型学習が可能です。
- 世界遺産を通してシルクロードの歴史を学ぶ
- 少数民族の家庭料理づくりから文化の成り立ちを知る
- 遊牧民の住居「ボズウイ」の組み立て体験
- 宴「トイ」に参加し、もてなしの文化に触れる
- 緊急保護が必要な無形文化遺産リストに指定される「伝統的なフェルト絨毯の芸術であるアラキイズとシルダック」作り体験を通して文化遺産の継承を考える
緊急保護が必要な無形文化遺産リストに指定される「伝統的なフェルト絨毯の芸術であるアラキイズとシルダック」作り体験を通して文化遺産の継承を考える遊牧文化、ソ連時代、そして独立国家として歩む現在のキルギス。その重層的な歴史を肌で感じながら、人との交流や体験を通して、世界の多様性や人間のたくましさを実感できる場所です。

日本とキルギスの未来をつなぐために
今後も教育・観光の両面から、日本とキルギスの交流を広げ、「学びの場としてのキルギス」を発信し続けていきます。多文化が共存するこの国は、探究心を刺激し、世界を広く捉えるための豊かなフィールドです。
