新渡戸文化高等学校「食と命」に向き合うフードデザインコースの挑戦

新渡戸文化高等学校 高橋正明先生

本企画では、全国の先生方に多様なスタディツアーの事例をご紹介いただいています。各ツアーがどのような背景や目的のもとで企画されたのか、参考情報をぜひご覧ください。第3回は、新渡戸文化高等学校の高橋先生よりご寄稿いただきました。

「食」と「命」を問い直す学びへ

新渡戸文化高校では、従来の修学旅行の枠を超えた選択制の「スタディツアー」を展開しています。

中でもフードデザインコースは、「食をつくる」「社会と食をつなげる」「学びをアウトプットへ」という年間テーマのもと、教室での探究とツアーを結びつける新しい学びのかたちを実践しています。

ツアーは単なる体験ではなく、教室での探究を深める“きっかけ”であり、学びを社会に還元する“通過点”として位置づけられています。テーマは「食と命」、そして「命をいただく」。日本の一次産業や食文化が抱える課題に触れながら、「生かされている」こと、「消費する側の責任」を体感する学びの旅が始まります。

一冊の本から生まれた出会い

このツアーの出発点は、ある教員が手にした一冊の本――『だから僕は船をおりた』(著・近江正隆)でした。都会出身の元漁師・近江氏の生き方に共鳴した教員が直接連絡をとり、「これからの日本に必要な学びとは何か」を語り合う中で、2024年度のスタディツアーでの協働が実現。

現在、近江氏は北海道十勝地方を拠点に、若手農業者との連携、地域食材の発信、NPO法人の設立など、都市と地方をつなぐ「食のつなぎ人」として多方面で活躍しています。

少人数制で深まる「問い」の学び

2023年度までは約50名が1地域を訪れる形式でしたが、2024年度からは少人数制へと舵を切り、3地域から行き先を選べるスタイルに進化しました。

少人数で現地を訪れることで、一人ひとりが体験を自分の「問い」と結びつけられるようになりました。事前に立てたテーマに基づいてインタビューやフィールドワークを行うことで、単なる見学ではなく、自分ごとの学びへと深まっていきます。

北海道・広尾町で「命」と出会う

その一つの舞台が、北海道広尾町。生徒たちは、酪農体験や農泊、ジビエ猟を行う女性猟師、昆布漁師との対話など、多様な現場を訪れました。

「自分がミルクをあげた子牛が、週末には出荷されると知り、命の重みを感じた」 「人工飼育される現実に、申し訳なさを感じた」 「想像していた牧歌的な風景と、現実の搾乳システムのギャップに驚いた」

生徒たちの言葉からは、「命は一度きりのもの」「感謝していただくもの」という実感があふれていました。

「思い出づくり」から「問いの旅」へ

今回のスタディツアーは、単なる体験を超え、「自分と社会の関係」を見つめ直す時間となりました。命に触れ、暮らしと食をつなげて考えることで、教室では得られない揺らぎや気づきが生まれたのです。

教育旅行が「思い出」から「問い」へと進化する中、フードデザインコースの挑戦は、次世代の学びに光を当てる取り組みとなっています。


【街キャンメンバー さとう】

高橋先生、この度はご寄稿いただきありがとうございます!

先生方で生徒の行先を開拓していったお話などとても気持ちがこもっていることが伝わってきました。

学校が外部連携していく時のコツなど今後も勉強させていただければと思います。